東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2548号 決定 1992年10月15日
当事者 別紙当事者目録のとおり
主文
一 債権者の申立てにより、別紙請求債権目録記載の債権の弁済に充てるため、別紙自動車目録記載の自動車について、強制競売を開始し、債権者のために差押える。
二 別紙当事者目録記載の占有者は、債権者の申立てを受けた執行官に対し、別紙自動車目録記載の自動車を引き渡せ。
理由
一事実関係
記録によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 債権者は、平成三年八月九日債務者に対する東京地裁平成三年(ヨ)第四八一一号自動車仮差押命令申立事件において、別紙自動車目録記載の自動車(本件自動車)について、登録の方法による仮差押え命令を取得し、平成三年八月一二日本件自動車の登録原簿に仮差押えの登録がなされた。
(2) その後平成三年八月二七日本件自動車について、所有者を別紙当事者目録記載の占有者とする登録が行われた。
(3) 債権者は、前記仮差押えの被担保債権である約束手形債権について、債務者に対する本訴を提起し(東京地裁平成三年(手ワ)第一一四〇号事件)、別紙請求債権目録記載の仮執行宣言付勝訴判決を得、執行文を取得し、判決の送達を済ませている。
二当裁判所の判断
(1) 強制競売の開始について
上記の事実によれば、仮差押えの債務者を当事者として、本件自動車について強制競売を開始する要件が満たされているものと判断される。
(2) 占有者に対する引渡命令について
自動車を登録の方法により仮差押えした場合、仮差押えには、その登録以後の売買、賃貸などの処分行為を制限する効力があり、仮差押えが本執行に移行した場合には、その執行手続においては、仮差押え後の処分行為の効力は否定される。
このような処分制限の効力は、仮差押えの本執行としての強制競売を可能とするため法律によって認められた効力であるが、自動車の強制競売においては、上記のように仮差押え後の処分行為を否定するほか、手続の最初の段階で自動車を執行官の占有下に確保する必要があり(民事執行規則八九条、九七条、民事執行法一二〇条)、このことは、仮差押えに当たり、登録のみ行い、自動車の占有を債務者から取り上げなかった場合においても、異なるところはない。
そして、仮差押えの処分制限効を受ける占有者は、将来仮差押えが本執行に移行した場合には、自動車の売却のため自己の占有を継続できなくなることを予め予測し、その前提で自動車を占有しているにすぎないものといわねばならない。
したがって、自動車の登録の方法による仮差押えがなされている場合に、仮差押えが本執行に移行したときは、仮差押えにより制限される処分行為により仮差押自動車の占有を取得した者は、上記のように処分行為の効力を否定されるほかに、自動車の強制競売のためその占有の確保を担当する執行官に、仮差押自動車を引き渡すべき義務があるものと解するのが相当である。
そして、登録の方法による仮差押えがなされている自動車について、仮差押えの本執行として強制競売を申し立てた債権者は、民事執行規則一七六条で準用される同規則一七四条二項を類推適用して、仮差押えにより制限される処分行為により仮差押自動車を占有する者に対して、その自動車を債権者の申し立てた執行官に引き渡すべき旨の引渡命令の申立てをすることができるものと解するのが相当である。
このような引渡命令は、自動車の占有者が仮差押えにより制限される処分行為によってその占有を取得した事実がある場合にのみ発令すべきもので、自動車の強制競売の審理とは異なる審理を必要とするから、自動車の強制競売とは別に、債権者の申立て及び立証を待って、発令すべきものであるからである。
上記認定した事実によれば、占有者は、仮差押えにより制限されている処分行為により本件自動車の占有を取得したものと推認される。したがって、債権者の本件自動車についての引渡命令の申立ても理由がある。
(裁判官淺生重機)
別紙当事者目録
債権者 株式会社高田商会
代表者代表取締役 高田祐一
債権者訴訟代理人弁護士 泉弘之
同 仲澤一彰
債務者 株式会社ロールスロイスユーエスエーオブジャパン
代表者代表取締役 椎名勝英
別紙請求債権目録
東京地方裁判所平成三年(手ワ)第一一四〇号約束手形金請求事件の執行力のある判決の正本に表示された下記金員。
なお、本申立は御庁平成三年(ヨ)四八一一号自動車仮差押決定の本執行移行としての申立である。
記
1 元金 金二九六三万五六一六円
別紙自動車目録
登録番号 練馬33ま227
(仮差押当時の登録番号品川34そ5141)
種別 普通
車名 ベントレー
形式 ―SCBZNT2―
車台番号 SCBZP03AXMCH35179
原動機の形式 L4101
使用の本拠の位置 東京都杉並区下井草四丁目一三―一
(仮差押当時の使用の本拠の位置
東京都港区西麻布一丁目六―一二)
債務者の氏名 宮田良夫
(仮差押当時の所有者
株式会社ロールスロイスユーエスエーオブジャパン)